ダイカストは、自動車部品、家電製品、産業機械部品など、多岐にわたる分野で高品質・高精度な金属部品を大量に生産するための重要な鋳造法です。しかし、その精密な工程においても、様々な要因によって不良が発生する可能性があります。
鋳巣
発生原因
鋳巣は、ダイカスト製品内部または表面に発生する空洞のことで、気泡巣と引け巣に大別されます。気泡巣は、溶融金属が金型キャビティ内に充填される際、空気やガスを巻き込んでしまうことが主な原因です。特に、複雑な形状の製品や、充填速度が速すぎる場合に発生しやすくなります。また、溶融金属自体のガス含有量が多い場合や、金型のガス抜き不良も要因となります。一方の引け巣は、溶融金属が凝固する際に体積が収縮する現象が、十分に補給されない場合に発生します。特に、肉厚の不均一な部分や、最終凝固部位に発生しやすい傾向があります。
対策
金型設計においては、適切なゲート位置とランナー設計により、溶融金属の流れをスムーズにし、空気やガスの巻き込みを抑制します。また、エアーベントや真空ダイカスト法などの効果的なガス抜き機構を設けることで、キャビティ内のガスを効率的に排出します。さらに、製品形状を考慮し、凝固収縮が均一になるような設計とします。
鋳造条件としては、適切な溶融金属温度および金型温度を設定し、充填と凝固をスムーズに進めます。また、射出速度や加圧力を最適化することで、乱流を抑制しつつ、凝固収縮を補償します。加えて、溶融金属の清浄度を高め、ガス含有量を低減させます。
さらに、真空ダイカスト法や局所加圧法などの特殊な鋳造技術を適用することで、鋳巣の発生を効果的に抑制できます。
割れ・変形
発生原因
ダイカスト製品における割れや変形は、製品の強度低下や寸法不良を引き起こす重大な不良です。不均一な凝固収縮により内部応力が発生し、それが製品の耐力を超えた場合に割れが生じます。特に、急激な温度変化や複雑な形状の製品では、この傾向が顕著です。また、金型からの離型時に無理な力が加わることで、割れや変形が発生することがあります。さらに、鋳造後の冷却過程や、機械加工などの後工程において残留応力が蓄積され、経時的に割れや変形を引き起こす原因となります。
対策
割れや変形を防止するための対策として、金型設計では適切な抜き勾配やR形状を設けて離型性を向上させるとともに、冷却水管の配置を最適化して凝固収縮の均一化を図ります。鋳造条件では、金型温度の維持や離型剤の適切な選定・塗布により、温度変化の抑制とスムーズな離型を実現します。さらに、後工程では焼鈍などの熱処理による残留応力の除去や、機械加工時の適切なクランプ方法と切削条件の管理によって、応力集中を防止します。
湯じわ
発生原因
湯じわは、溶融金属の合流部で温度低下などにより完全に融合できず、表面に線状の模様として現れる鋳造不良です。充填中に溶融金属の温度が過度に低下すると、流動性が悪化し、合流部で十分に融合できなくなります。また、充填速度が遅すぎると、先に流れ込んだ溶融金属が冷却され、後から流れ込んだ溶融金属との融合が不完全になります。そして、不適切なゲート位置やランナー設計は、溶融金属の流れを阻害し、湯じわの発生を助長します。さらに、金型温度が低いと、溶融金属が早期に冷却され、湯じわが発生しやすくなります。
対策
湯じわを防止するための対策として、金型設計ではゲート位置やランナーの最適化により溶融金属の流れをスムーズにし、必要に応じてオーバーフローやウェルを設けて初期の低温金属を排出します。鋳造条件では、適切な溶融金属温度および金型温度を設定して流動性を維持し、適切な射出速度によって迅速な充填を行います。さらに、溶融金属の清浄度を高めることで酸化物の生成を抑制し、融合不良の発生を防ぎます。
ひけ
発生原因
ひけは、製品表面に発生する凹みのことで、主に肉厚部の凝固収縮によって発生します。肉厚部は薄肉部に比べて凝固時間が長く、その間に凝固収縮が進行するため、表面が内部に引き込まれて凹みが生じます。特に、リブやボスなどの裏側に発生しやすい傾向があります。
対策
凝固収縮による欠陥を防止するためには、製品設計段階から肉厚差を最小限に抑えた形状を検討することが重要です。金型設計では、リブやボスの裏側に冷却ピンを配置するなど、冷却を促進する工夫を施します。鋳造条件としては、適切な保圧力と保圧時間を設定して凝固収縮を補償し、金型温度を適切に管理することで、均一な凝固を実現します。
かじり
発生原因
かじりとは、金型とダイカスト製品が焼き付き、離型時に製品または金型が損傷する現象です。離型剤の塗布不良や選定ミスにより、金型と溶融金属が直接接触し、高温・高圧下で焼き付きが発生します。また、金型温度が過度に上昇すると離型剤の効果が低下し、焼き付きのリスクが高まります。さらに、金型表面に異物が付着した状態で鋳造を行うと、局所的に圧力が集中し、焼き付きの原因となることがあります。加えて、使用する溶融金属と金型材質の相性が悪い場合には、化学反応などにより焼き付きが発生することもあります。
対策
かじりを防止するためには、離型管理・金型管理・鋳造条件の各側面で適切な対応が必要です。離型管理では、適切な離型剤の選定と、均一かつ適量の塗布、および塗布サイクルの最適化が重要です。金型管理では、冷却システムによる金型温度の適切な制御、金型表面の清浄保持、さらに使用する溶融金属に適した金型材質の選定が求められます。鋳造条件としては、射出速度や加圧力を適切に設定し、金型に過度な負荷がかからないように管理することが必要です。
ヒートクラック
発生原因
ヒートクラックとは、ダイカスト金型の表面に発生する亀裂であり、主な原因は溶融金属の高温と冷却の繰り返しによる熱疲労です。高温の溶融金属が金型に注入される際の加熱と、冷却水による冷却のサイクルによって、金型表面に熱応力が蓄積され、徐々に亀裂が進行します。さらに、長期間の使用により金型材質が熱疲労で脆化すると、ヒートクラックの発生リスクが高まります。また、鋳造サイクルの短縮や冷却不良による急激な温度変化も、熱応力を増大させ、ヒートクラックの進行を助長します。
対策
ヒートクラック防止には、金型設計で冷却水管の最適配置や角部のR形状化によって局所的な応力集中と温度上昇を抑制します。金型材質は耐熱・耐摩耗性の高い鋼を選び、必要に応じて窒化処理などの表面処理で耐ヒートクラック性を高めます。鋳造条件では溶融金属温度や金型温度の適切な管理と冷却時間の調整により熱負荷を軽減し、急激な温度変化を避けます。さらに、定期的な金型点検と早期補修によってヒートクラックの発生を抑制します。