
アルミダイカストは、自動車部品や産業機械に広く用いられます。しかし、流動性を高めるために添加されるシリコンや銅の影響で、純アルミニウムと比較すると耐食性に劣ります。また、鋳造時に表面へ離型剤が付着するため、そのままでは酸化による黒ずみや腐食、塗膜の剥離が発生します。要求される機能を満たすためには、目的に応じた適切な表面処理や物理的処理、熱処理の選定が必要になります。
本コラムでは、ダイカスト製品に施される代表的な表面処理と、その特徴を解説します。
ダイカストの化学的・電気的表面処理
アロジン処理(化成処理)
アルミニウムを化成処理液に浸漬し、表面に化学的な保護皮膜を形成する処理です。主な目的は、防錆性の向上と、塗装やゴム焼き付け時の密着性の確保です。寸法変化が極めて少なく、複雑な形状の部品でも均一に処理できる点が特徴です。かつては防食性の高い六価クロムを用いた処理が主流でしたが、現在はRoHS指令などの環境規制に対応するため、三価クロム化成処理や、クロムを含まないジルコニウム系・チタン系のノンクロム処理への代替が標準化しています。安価かつ短時間で処理でき、量産品の下地処理として最も一般的な選択肢です。
アルマイト処理(陽極酸化処理)
酸性の電解液中で製品を陽極として電解し、表面に多孔質で強い酸化アルミニウム(Al2O3)の皮膜をつくる工法です。耐摩耗性、耐食性、絶縁性が大幅に向上します。しかし、ダイカスト材へアルマイト処理を行う場合は、ADC12に多く含まれるシリコンが電流を通さず酸化皮膜を形成しないため、処理後にシリコンが表面に露出し、色むら、黒ずみ、ザラつきが発生しやすくなります。これを防ぐには、特殊な混酸を用いたダイカスト専用の前処理(デスマット処理)で表面のシリコンを除去する、あるいは皮膜を厚く生成する硬質アルマイトを採用するなどの適切な処理が必要です。
ダイカストの物理的表面処理
鋳造直後の製品に存在する金型合わせ目のバリや、不均一な表面層を物理的に除去・調整します。
バレル研磨
製品、研磨石(メディア)、コンパウンド(助剤)、水を専用容器(バレル)に投入し、回転や振動、遠心力を与えて製品表面を削り取る、または滑らかにする工法です。ダイカストでは主に振動バレルや遠心バレルが用いられます。複雑な形状における内径や止まり穴のバリ取り、面取り、鋳肌の粗さ改善を一度に大量処理できるため、生産性が高い工法です。目的に応じてセラミック、樹脂、スチールなどのメディア材質を細かく選定し、仕上がりをコントロールします。
ショットブラスト(アルミショット・亜鉛ショット)
金属等の微粒子(投射材)をインペラーの遠心力や圧縮空気を用いて製品に高速で打ち付ける処理です。強固なバリ取り、鋳肌の均一化、塗装下地としての粗面化(アンカー効果の付与)を目的とします。
- アルミショット
製品母材と同じアルミニウム合金の粒子を投射します。打痕が比較的浅く、製品表面を明るく白っぽい、均一な梨地肌に仕上げることができます。最大の利点は、製品表面に異種金属が残留・付着した際に発生するもらい錆(電食現象)のリスクがない点です。
- 亜鉛ショット
アルミより比重の重い(約2.6倍)亜鉛粒子を投射します。比重の大きさに比例して打撃力が強くなるため、アルミショットでは落としきれない強固なバリの除去に効果的です。また、処理時に製品表面へ微量の亜鉛が被膜として付着します。亜鉛はアルミよりイオン化傾向が高く、腐食環境下において亜鉛が先に溶け出す犠牲防食作用が働くため、アルミ本体の白錆発生を遅らせる効果が得られます。
ダイカストの熱処理
厳密には表面処理ではありませんが、ダイカスト製品の強度向上や残留応力の除去を目的に行われるのが熱処理です。
T5処理(人工時効硬化処理)
ダイカスト成形後の製品に対し、150℃〜200℃程度の比較的低温で数時間加熱・保持する処理です。鋳造時の急速な冷却によって内部に発生した残留応力を除去し、機械加工時や経年変化による寸法の変形を防ぎます。合金成分の析出を促すことで一定の硬度向上も得られます。加熱温度が低いため製品への熱変形リスクが少なく、一般的なダイカスト製品に広く適用することができます。
T6処理(溶体化処理+人工時効硬化処理)
450℃〜500℃以上の高温で加熱して合金成分をアルミ中に固溶させた後、水などで急冷し、さらにT5同様の人工時効硬化処理を行う熱処理です。T5処理よりも大幅に高い引張強さと耐力を得られます。しかし、通常のダイカスト法では鋳造時に溶湯が金型内の空気や離型剤のガスを巻き込んで凝固するため、内部に多数の微細な巣が存在します。これをT6の高温で加熱すると、内部のガスが膨張し、製品表面に「フクレ」と呼ばれる致命的な欠陥が生じます。したがって、T6処理を行う場合は、金型内を真空状態にしてガス巻き込みを防ぐ高真空ダイカスト法や、高圧でゆっくり充填するスクイズダイカスト法など、特殊な鋳造プロセスで製造された空洞の無い製品に適した熱処理方法です。
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