ダイカスト金型の寿命と品質維持

金型
目次
index

ダイカストにおいて、金型は製品の品質と生産効率を左右する極めて重要な要素です。特に、継続的な生産を行う中で、金型は様々な負荷に晒され、その寿命を迎えます。本稿では、ダイカスト金型が抱える課題、特にショット数の増加に伴うヒートクラックや金型欠け、そしてそれらが後工程や製品品質に与える影響についてです。

ショット数増加と金型の劣化

ダイカスト生産において、初期段階や比較的ショット数の少ない更新型金型では、大きな問題は発生しにくい傾向にあります。しかし、生産が進み、ショット数が数万、数十万と増加していくにつれて、金型は徐々にその寿命を迎えます。特に顕著な問題として挙げられるのが、金型温度の変化に起因するヒートクラックの発生です。ダイカスト成形は、高温に溶解した金属を金型内に高速で射出し、急冷固化させるプロセスです。このサイクルが繰り返されることで、金型表面は急激な加熱と冷却を繰り返し、熱疲労が蓄積していきます。特に、金型の特定の箇所、例えば湯道の先端やコーナー部、冷却管の近傍など、温度変化が集中しやすい部分から微細な亀裂(ヒートクラック)が発生しやすくなります。初期のヒートクラックは微小であり、製品の外観や機能に直ちに影響を与えるとは限りません。しかし、ショット数の増加とともに、これらの亀裂は徐々に成長し、最終的には金型の一部が欠けてしまうという深刻な事態を招きます。

金型欠けが引き起こす二次災害

金型が欠損すると、その部分にはバリや余分な金属(だにく)が発生します。特に外観部品の場合、これらのバリやだにくは製品の美観を損なうだけでなく、後工程である組立作業において、作業者が誤って手を切ってしまうといった労働災害を引き起こす可能性があります。安全管理の観点からも、金型欠けは決して見過ごすことのできない問題です。さらに、外観部品においては、製品寿命や市場での評価を考慮し、一定のショット数(例えば30,000個)を超えた金型で成形された製品は焼却処分されるという厳しい品質基準が設けられている場合があります。これは、金型の劣化が外観品質に与える影響の大きさを物語っています。

金型温度管理の重要性

ヒートクラックの発生を抑制し、金型の寿命を延ばすためには、金型温度の適切な管理が不可欠です。ダイカスト成形における金型温度は、溶融金属の流動性、凝固速度、そして製品の品質に大きな影響を与えます。適切な金型温度を維持することで、溶融金属がスムーズに金型内に行き渡り、湯回り不良を防ぐことができます。また、凝固を適切にコントロールすることで、内部欠陥の発生を抑制し、寸法精度の高い製品を得ることが可能です。さらに、金型表面の温度変化を緩やかにすることで、熱疲労の蓄積を抑え、ヒートクラックの発生を遅らせることができます。金型温度の管理には、冷却媒体の温度や流量の調整、金型への冷却回路の設計などが重要となります。ショット数が増加するにつれて、金型温度は上昇する傾向にあるため、より効果的な冷却システムの構築と維持が求められます。

ショット数増加と冷却管メンテナンス

ショット数の増加は、金型温度の上昇だけでなく、湯回りの改善という側面も持ち合わせています。金型が適度に温まることで、溶融金属の流動性が向上し、複雑な形状の製品でも隅々まで金属が行き渡りやすくなります。しかし、その一方で、冷却管にはスケールや異物が堆積しやすくなり、冷却効率が低下するという新たな問題が発生します。冷却効率の低下は、金型温度の過剰な上昇を招き、ヒートクラックの発生を促進するだけでなく、サイクルタイムの長期化や製品の品質不良にも繋がります。そのため、ショット数の増加に応じて、定期的な冷却管のメンテナンスが不可欠となります。

金型洗浄と離型剤塗布

金型表面に付着した残留物やスケールは、製品の品質低下や金型寿命の短縮を招く要因となります。そこで重要となるのが、金型洗浄機の活用です。金型洗浄機は、高圧の洗浄液や蒸気などを用いて、金型表面の汚れを効果的に除去します。定期的な金型洗浄は、冷却効率の維持、製品の離型性向上、そして金型自体の保護に繋がります。ダイカストにおいて、常に安定した品質の製品を生産するために最も重要なことの一つが「再現性」です。そのため、金型洗浄は、単に汚れを落とすだけでなく、常に同じ状態で金型を使用するための重要なプロセスと言えます。ダイカストメーカーの中には、この金型洗浄機を自社で保有している企業とそうでない企業が存在します。自社で保有している企業は、より迅速かつ柔軟に金型メンテナンスを行うことができ、品質管理においても優位性を持つと考えられます。

また、離型剤の適切な使用も、ダイカスト成形における品質維持の重要な要素です。離型剤は、溶融金属と金型表面との焼き付きを防止し、製品のスムーズな取り出しを助ける役割を果たします。特に外観部品においては、わずかな焼き付きも不良に繋がるため、シリコンを含んだ離型剤が使用されることがあります。シリコンは離型効果が高く、焼き付きを抑制する効果が期待できます。しかし、シリコンの過剰な使用は、塗装工程がある部品においては注意が必要です。シリコン成分が製品表面に残ってしまうと、塗料の密着性を阻害し、塗装不良の原因となる可能性があります。そのため、離型剤の選定と塗布量の管理は、製品の最終的な品質を左右する重要なポイントとなります。離型剤の管理においては、使用量や濃度などを記録した管理表に基づき、常に安定した状態で生産を維持することが求められます。また、製品に付着した余分な離型剤を確実に除去するために、エアブローなどの後処理をしっかりと行うことも重要です

一覧に戻る
column

技術情報一覧

「技術情報」の記事

contact

お気軽にご相談ください

軽量・薄肉ダイカスト 開発センターは、皆様に高品質・コストダウン・製造リードタイムの短縮といったメリットを提供します。